web漫画/カカオ79%【あらすじ&感想152話】~残り21%の甘さ~
152:発する言葉
カカオ79%【あらすじ】
勇は中学の時の写生大会、愛ちゃんとベンチに座り話したことを思いだしていた。
「お前さ、俺のこと好きだったりしてないよな」
勇が愛ちゃんに言う。愛ちゃんは少し驚いた顔をして勇を見た。勇は持っていた鉛筆で、自分の頭をかいた。
***
外では文化祭のキャンプファイヤーが行われている。校舎の中は、ほとんど暗く、静まりかえっていた。翼は、勇を迎えに教室まで来た。机に腰をかける勇と、迎えに来た翼は向かい合って見つめ合っていた。ドクン、ドクン、と勇の心臓が鳴る。勇の脳裏には、舞台上で見た、翼と橘君のツーショットが思い浮かんでいた。
「し、下でリナ先輩が待ってるから、着替え終わったんなら降りて来いって…」
翼は耐え切れなくなり、視線を外して右手で頭を掻きながら、左手はお腹の前で握り締めながら言った。
翼の頭の横に、小さな委員長がピヨンと出てきて、怒っていた。
「嫌なら嫌だと言ってしまえばいい!」
翼は、小さな委員長を左手で握りつぶした。委員長は、キャーと悲鳴を上げて消えた。
あーもー委員長うるさい、メガネの妖精かよ
自分の気持ちのためにまた迷惑をかけるのはもうごめんだから!
翼は、劇の大道具係りの子たちを思い出しながら思う。
「嫌なら嫌っていってよ」
また、翼の耳に、委員長の声が響く。翼は思わず
「だからうっさいって…!」
と声に出して我に返る。
「え?」
目の前の勇は固まっていた。
「……うるさ…まだ一言しかしゃべってないのに」
翼の妄想の委員長への言葉が、自分に言われたと思って、勇は結構傷ついていた。
「いや悪い!今のは…!ち、ちがう!え、えーと…」
翼が慌てる。
「…嫌とかどうか私の気持ちは今関係ないでしょ、決まったことだしあんたは今リナ先輩のところへ行かないといけないのよ」
翼は頭を掻き、うつむきながら言う。
「お前が嫌だと言うなら俺は行かない」
勇の言葉に翼は顔を上げた。
「行かないでって言うと行かない」
勇はもう一度言った。
そして、座っていた机から降りて、翼の正面までゆっくり歩いてきた。翼は勇の顔を見ている。
「~~~~~~~~~、な、何でだよ、私あんたの彼女でもないのに…!」
翼は、勇から顔を背けて言う。勇が、翼の顔を見下ろす。
チクショウ…
言い方子供かよ
自分はなぜこうもバカなのか
翼は恥ずかしさで涙目になっていた。と、勇が突然、しゃがみこんだ。
「…?なに…してんの、急に」
翼が勇に聞く。
「…………お前さ」
勇が、しゃがんで下を向いたまま、赤い顔で言う。
「まじで俺のこと好きなのね」
「~~~~~~~~~~~~!?」
翼は、顔が赤くなり、怒りも覚える。
「何度もそう…!言ってるだろうがあああ…!!」
翼が左手でグーパンチを勇の顔めがけて飛ばす。が、勇は顔を横にさっとよけた。
「あ?」
パンチを外して前につんのめる翼は、胡坐で座る勇の胸に飛び込む形になる。勇は座ったまま、翼を受け止めた。腕はしっかり翼の背中に回していた。
翼を抱きながら、勇は今までのことを思いだしていた。
***
勇は中学の時の写生大会。
「お前さ、俺のこと好きだったりしてないよな」
勇が愛ちゃんに言う。
愛ちゃんの固まった表情を見て、勇は鉛筆でぽりぽり頭を掻いた。
「だって全然そんな風には見えないし、大体お前俺に翼のこと好きかって聞いてきた・・・!」
愛ちゃんは、ガタンと突然立ち上がった。
そしてベンチに座る勇の前に立つ。勇の目をじっと見て、顔を近づける。唇が重なるくらいに。
でも、顔の真ん前で、愛ちゃんは止まった。愛ちゃんは、勇の制服の襟をギュッと持って、冷や汗をかきながら、勇の顔の前で止まったのだ。
「………何無理してんだよ、どけ」
勇は無表情に愛ちゃんに言った。愛ちゃんは手を離すと、何も言わずに走って言ってしまった。
「お、おい!」
勇は心臓がバクンバクンしていた。動揺していたのだ。
「何だよ、一体…」
まさか…とぐらいに思っていた。
***
翼が刺された日。中学2年生のクリスマス。雪が降る中、病院の屋上で勇は愛ちゃんと話していた。
勇は泣いていた。
「ごめん…なさい」
愛ちゃんが勇に言う。
「…止めたかったの、あなたを。引き延ばしにしかならないってことはわかってるよ、でも気持ちを伝えようとするあなたを…止めたかったの…!」
勇は思わず顔を上げた。
「は…そんなことで?ざけんなよ、状況考えろよ。はっ…なんで?俺がどうしようがお前には関係ねぇだろうよ!!」
語気も強くなっていた。
「…好きだから」
「私だって綾野さんが好きだから…!!」
別に驚いてなどいなかった
ああーそうだったのかとむしろ納得した
そして許せなかった
勇は、無表情で、目を見開いたまま、それを聞いた後、しばし間が開いて、そして
「そんなことどうでもいい」
と言った。
愛ちゃんの目には涙がたまっていた。
「お前は自分の気持ちだけのために、翼の好意を利用したんだ」
「軽蔑する」
勇はそう言うと、愛ちゃんに背を向いて、歩いて行った。勇の頭の中は、色んな気持ちが渦巻いていた。
俺は…
あいつは俺とこいつを結ばせるために…
自分の気持ちより好きなやつの気持ちを優先すべきじゃねぇのかよ
好きなら
…守れたかもしれないのに…
俺のせいで…
最初から3人で動いてたら
いやどっちかがついてさえいれば
時間が戻せたら
***
「学校やめたって」
愛ちゃんが学校をやめたことは、勇も翼も、後から知った。翼は驚きのあまり声が出なかった。
やめ…た?
傷つけて
さらに傷つけて
本当のことは何一つ伝えずに消えた夏目が
そうさせてしまった自分が許せなかった
勇は思う。ふざけんじゃねぇよ、そこまでしておいて消えた?そのぐらいの気持ちで俺に挑んできたのか?なぜ翼にちゃんと伝えなかった?性別のことが気になって?そんなんどうでもいいだろ。怪我の責任を感じて?嘘をついた罪悪感で?
「お前、バカじゃねぇの?」
「軽蔑する」
………俺のせいか
翼は、勇の袖を持って、泣きながら言った。
「勇、あんたはずっと…ずっと友達でいてね」
これは罰だと思った
「愛ちゃんとちゅーしてんの見た」
翼の言葉。
呪いだった
夏目の思いを俺から勝手に翼に伝えるわけにはいかない
でもその誤解を解かないと俺の思いを伝えることも出来ない
ずっと大事にしてきた一言が伝えられない
翼がファイティングポーズで言ったことを思いだす。
「つ、つきあおう!!」
翼が勇の胸に顔をうずめて言ったことも思い出す。
「好き!」
それから、翼がいっていたこと。
「つまりあんたにならこちとら何されてもいいってことよ」
そして、2人して風邪をひいている中、勇は翼から、キスをしてきたことも思い出した。
***
「あー、もう好きじゃねえよー!!もうこれでいいわ!!」
翼が叫んだ。
「テメェすこーしモテるからって人の心をもてあそびやがって、人がすきすき言うからすき焼きに見える?!すき焼きは好きだけどテメェは大嫌いだ!離せよこのチャラ男!!リナ先輩のとこ行けって!!」
勇は、翼のことを痛いほど抱きしめたまま、離さなかった。
「俺は好きだけど」
「は?」
「好きだよ、翼」
でももう待たねぇよ
俺だってここまで必死だったんだ
悪いけどお前の許しはもう待たねぇよ
夏目、悔しいなら…
***
中3のバレンタインデー。勇は後輩に告白された。
「ごめん…」
「…他に好きな人がいるんですか?」
「…」
「綾野先輩ですよね・・・最後に教えていただけませんか?」
「俺は・・・、ごめん、それはやっぱ、本人の前で言いたいから今は言えねえよ」
あの時、勇はそう答えていた。
To Be Continued
カカオ79%【感想】
78話の病院の屋上での「ヒュン」で隠されていた一言がやっと見えました。が、その一言が、私の予測の範疇をまったく超えていて、びっくりしました。度肝抜かれました。作者様の仕掛けた罠にどっぷりはまっておりました。
今までの伏線も、過去編も、勇のヘタレ具合も、それ以外のいろんなシーンが、全部違う意味に変わって見えてきて、一週間かけて1話から全部読み返してしまいました。
途中で感じていたちょっとした違和感が全部辻褄があいました。たとえば、勇の愛ちゃんに対しての態度。もし、愛ちゃんが(私の予想通り)勇のことが好きで、あの時告白したとして、冷たすぎじゃないかと思っていました。
「バカじゃないの?」というセリフにも違和感がありました。傍観しすぎじゃない?って思っていました。でも、愛ちゃんは、翼のことが好きだと言う点で、自分と同じ立場として見ていた勇の行動だと思うと、どれもこれもしっくりくるのです。
モブ男がどこまで知っているのかわからないけど、勇じゃなくて、翼にばかりちょっかいを出すのも納得がいきます。過去編をみたあと、愛ちゃんを傷つけたのは、明らかに勇だったのでは?と思っていました。
でも、読者が知ったこの真実、翼はまだ知らないんです。むしろ、勇と愛ちゃんはチューしたと思っているんです。
でも、勇がやっと前に進めたから、やっと二人の気持ちがかみ合ってきそうです。
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