『片想いシュリンク』まさかの恋愛ファンタジー冒険譚
『片想いシュリンク』EP*05 negative【あらすじ】
カランカラン、と音を立てて、虎之助は喫茶ノエルの中に入った。さっき、泣きそうなすみれちゃんを連れて、飛び出してしまってから、少しだけ時間が経っていた。
「お、とらのすけ、戻ってきたのか。すみれまだ本調子じゃなかったんだろ。無理すんなってお前からも叱っとけよー」
カウンターで作業しながら、あおいくんが言った。
「あーあはは」
虎之助は曖昧に笑った。両手を、ジャンパーのポケットにつっこんでもぞもぞしていた。
アオイくん
そのすみれちゃんなら
今僕のポケットの中です
「ていうかお前も顔色悪いな?」
あおいくんは、カウンター席に座る虎之助の顔を覗き込んだ。
「そうかな」
あわてて虎之助が答える。
「さくらちゃん、旅行で留守だったろ?飯ちゃんと食ってた?」
さくらちゃんとは、虎之助の祖母で、名前はさくらこと言う。
「うん」
すると、あおいくんの後ろから、喫茶ノエルのマスターが口を挟んだ。
「アオイくんてば2人のお兄さんみたいだねえ」
「えー心外だなマスター、みたいじゃなくて実際お兄さんでしょーよ」
あおいくんはマスターの方を振り返って言った。
「俺、2人のこと、超かわいい弟と妹だと思ってますよー、なーとらのすけ」
虎之助のポケットの中で、すみれちゃんがぴくっと動いた。
「う、うん…」
虎之助は、少し顔を赤らめながらうなずいた。
「そっかそっかごめんね、二人共」
とマスター。
アオイくん…
僕らのこと
そんな風に思っててくれてたんだ
すみれちゃんも、虎之助のポケットの中で、じっと何かを考えていた。
***
喫茶店を出て、商店街を歩きながら、虎之助はポケットの中のすみれちゃんに話しかけた。
「うーん、もしかして喫茶店に手掛かりあるかもと思ったんだけど変化なかったね。2回とも小さくなる直前にノエルにいたから……ってあれ?すみれちゃん聞いてる?」
「…ん」
すみれちゃんは、ポケットの中でモゾッと動いた。
「よかった。ごめんね、すみれちゃんも疲れちゃったよね、僕も一緒に頑張るからね!」
商店街の花屋の軒先に、じょうろを持った店員さんがいた。
「あらぁ、とらちゃんこんにちは~」
「つむちゃん!こんにちはー」
つむちゃんは、とらのすけをみると笑顔であいさつしてくれた。
「今日はお天気がいいわね~」
「つむちゃんお天気好きだもんねー」
虎之助も笑顔で返す。二人の間に、のっほほんとした雰囲気が流れる。
このお姉さんは
お花屋さんの一人娘のつむぎちゃん
ほんわかしていて癒し系だって
近所でも評判の看板娘なのですが…
すみれちゃんは
…なんだか少し苦手なタイプみたいです
すみれちゃんは、とらのすけのポケットの中で、コチンと固まっていた。が、少しすると、小さな声で、虎之助を呼んだ。
「とらのすけ、しっ、あっちのお店のはしっこ見て」
つむちゃんは、別の花の方に気を取られていた。虎之助が、すみれちゃんに言われた赤い花の方をみる。
「あそこの花、なんていうのかつむぎさんに聞いてくれない?」
すみれちゃんが小声で言う。
「ねえつむちゃん」
「はーい?」
「あの端っこにある花ってなんていうの?」
虎之助は、すみれちゃんに言われた通りに聞く。
「あの赤いお花?あれはね~、アネモネよ」
***
「花言葉は、はかない恋・恋の苦しみ・見捨てられた・辛抱・薄れ行く希望…見放された…」
すみれちゃんが、虎之助の家に帰って来てから、スマートホンでアネモネの花言葉を調べていた。
「なんでそんなネガティブワードばっかり!!!?」
虎之助が驚く。
「この前のアレルギー反応が出た花に似てたから名前を聞いたんだけど、思わぬダメージを受けたわ…つむぎさんおそるべし…」
すみれちゃんは、スマホに両手と両足をついてがっくりしていた。
「わわっつむちゃんはなんにもしてないよ!?」
虎之助が慌てって訂正する。
「そう…つむぎさんはなにもしてない。何もしてなくても可愛いし…ちっちゃくて癒し系だし、気の利いたこと言わなくてもあの笑顔さえあれば愛されるのよ…」
虎之助とすみれちゃんの頭の中に、「わたしおはなだーいすきー」と笑顔で言っているつむちゃんの顔が頭に浮かぶ。
「気を遣って優しさを行動にうつさないと周りを威圧しちゃうデカくてツリ目の私とは違うの!!私が黙ってたら怖がられるじゃない!高3女子なのにまだなぜか身長が伸び続けている私とは違うの!!成長期長すぎるの!!!」
すみれちゃんはそうつづけた。虎之助はそんなすみれちゃんに圧倒されながらもなんとか口を挟む。
「すみれちゃん、結構身長気にしてたんだね!?」
「私だって小さく生まれたかった-!!!」
すみれちゃんが叫ぶ。すみれちゃんは170㎝をこえており、つむちゃんは150㎝くらいだった。
「…そうしたら、私でももうちょっとみんなの前で可愛くいられたのかな」
すみれちゃんは、両腕に頭をのっけて、すんすんと泣き出した。虎之助は、くるっと向き直ると、ちょきちょきもそもそなにやら作業を始めた。
泣いていたすみれちゃんは、何も言わない虎之助の様子を少し覗った。そして、プンスコ怒り出す。
「そうよね!とらも小さくて可愛いもの!!デカい私の気持ちなんて」
と言ったすみれちゃんの頭に、虎之助は、着ているワンピースと同じ柄のリボンをふわっと乗せた。そして、笑顔で言う。
「なんだ、僕すみれちゃんは可愛いって言われるのが嫌なのかと思ってた。大きいとか小さいとかすみれちゃんは気にしてるのかもしれないけど、僕はすみれちゃんのこといつだって可愛いと思ってるよ」
「…とらのすけ」
虎之助は、優しい目ですみれちゃんを見つめた。
「…うん、すみれちゃんは可愛いよ」
そして、すみれちゃんの頭を優しくなでる。すみれちゃんは、かあああと赤面した。
ドクン
!
「あ……」
すみれちゃんががくっとなる。
「すみれちゃん!?」
「とらぁ」
もしかして…
すみれちゃん、元に戻るー!?
すみれちゃんが、両手を胸の前でクロスした。元に戻ると、スッポンポンになるからだ。
「わわわ」
そして、ぷすん、と音がした。が、すみれちゃんの大きさはかわらない。
「…へ?」
虎之助が固まる。
「屁じゃないわ!!してないわ!」
すみれちゃんが慌てる。
「大丈夫、分かってるよ!落ち着いて!」
すみれちゃんが青くなって言う。
「い…今のはこの間戻った時と似た感じがしたのに…なんで?しかもなんか恥ずかしかったわ」
「うーん…なんか気合が関係あるとか?」
虎之助が曖昧に答える。
「そんな曖昧なの困るわ!」
すると、すみれちゃんの鞄に入っているスマホが鳴った。
「あ、すみれちゃん電話かな?」
「誰かしら、とらのすけ表示見てくれる?」
「うん、アオイくんからだ」
To Be Continued
『片想いシュリンク』EP*05 negative【感想】
すみれちゃん、弱っているついでに自分のコンプレックスを話していましたね。でも、虎之助のフォロー、完璧ですね。虎之助の、計算のない行動は、嫌味にならなくていいですね。
小さくなって、こっそり(?)アオイくんから自分や、虎之助への気持ちを聞いて、すみれちゃんはどう思ったのでしょうか。虎之助は、弟みたいに思っていると聞いて素直にうれしそうでした。
でも、すみれちゃんは必ずしもそうではないはずです。妹ポディションを目指しているわけではありません。とはいっても、自分のことを大事に思ってくれていることは、嬉しくないわけではないでしょう。複雑な気持ちになりますね。
このタイミングで出てきたツムギちゃん。きっと重要人物に違いありません。小さくなったことのキーパーソンか、アオイくんが告白した人かどちらかなのかな、と思います。
『片想いシュリンク』EP*05 negative【タイトル考察】
美人で、努力で学力を手に入れて、学校でも確固たる地位を築いているすみれちゃんにも、コンプレックスがありました。普段はそんなことは口にしないすみれちゃんも、弱っているとつい、ネガティブ発言、してしまうものですね。
自分の素を一番見せてきた虎之助でさえも、慎重や見た目のコンプレックスははじめて聞いたみたいでした。
つむぎちゃんはなにもしていないのに、つい言葉上で当たってしまうすみれちゃん。ネガティブパワー、恐るべし。やんわり虎之助が軌道修正していて、素敵ですね。虎之助、見た目以上にすごくすごくしっかりしています。たとえ、負のパワーでいっぱいになっても、虎之助がついていれば大丈夫そうですね。
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