『片想いシュリンク』まさかの恋愛ファンタジー冒険譚
『片想いシュリンク』EP*07一方的な気持ち【あらすじ】
学校の体育館。
「……」
ジャージ姿のマオちゃんが、メガネを通して少し離れたところにいるジャージ姿の虎之助を観察していた。
「うーーーむ」
「も…限界ぽい…」
体育館のマットを運んでいたクラスメイトの女の子が、腕をプルプル振るわせながら言った。
「えぇー」
マットの反対側を持っている女子が、驚きの声を上げている。虎之助は、その子たちのすぐ近くで、別のマットを畳んで運ぼうとしていたが、声をかけた。
「わぁ大変!僕が運ぶからのせていいよ」
「えっそれじゃあとらちゃん前見えなくね?」
重ねたマットを見て、女の子のクラスメイトが驚く。
「持ち方変えるからダイジョーブ!」
虎之助は笑顔で答える。
「うえーん、とらちゃんたすけて~」
違うところでも、虎之助に助けを求める声が上がった。
そして、虎之助は、積みあがったマットを、両手で頭の上までヒョーイと持ち上げた。馬鹿力だ。
「すごい!」
「すごい!!」
「すごい!!!」
一緒に、マットを片付けていたクラスメイト達が驚きの声を上げた。
離れたところでみていたマオちゃんも思わず、ほああと、ときめく。
やっぱり
しゅき…
「みくも、お前筋肉どうなってんの?」
と聞かれている虎之助は、笑顔で答えていた。
「んー?女の子よりはあるよー!」
そんな虎之助のことを、マオちゃんはじーっと見つめていた。
市村麻央、15歳…
最近、愛しのみくもんに元気がありません
…でも
アンニュイなみくもんもアリだけど…
…って
わ
こっち来る!
「マオちゃーん」
虎之助が、マオちゃんに優しい笑顔で声をかけてきた。
「それ僕が運ぶよー?重いでしょ?」
それというのは、マオちゃんが、虎之助の観察をしながらも運ぼうとしていたマットのことだ。マオちゃんはつい、トゲのあるツンとした感じで返事をしてしまう。
「べ…別にこのくらい私でも運べるわよ!!」
ああーーー!!
内心は、そのトゲを気にしている。
「演劇部だから文化系だと思ってるんだろうけど、裏方作業で重いもの運ぶなんて慣れっこなんだから、バカにしないでよね、みくもん!」
バカはお前だ、私ぃいいい、あわわわわわ
とマオちゃんの内心。
「…そっか、ごめんね、じゃあ反対側持つから僕にも手伝わせて、ね?」
虎之助は笑顔で言うと、ストンとマットの反対側に膝を落とした。マオちゃんの心に、虎之助の笑顔が突き刺さる。
「す…好きにしたらっ?」
「はーい」
好き
私は昔から素直に好きなものを好きと言えない性格で…
だから自分の想いを素直に出せる創作と言うものに興味を持ったの…
中学の時はある新聞の会長賞を受賞して
文芸部の部長も努めたわ
文芸部会報もVolume100まで出した!
そして…高校入学
それは正に運命的な出会い…
***
「…あら、目にゴミがはいったのね、とらのすけ、こんなに涙を流して可哀想に…私が助けてあげるからよく見せてちょうだい」
ある日の登校風景。すみれちゃんが、虎之助の顔を両手で包んでいた。とらのすけは、頬を赤くして目を瞑っていた。
「んっすみれ…先輩…ぐすっ」
「泣かないの、男の子でしょ。ほら、顔を背けないで」
その様子を少し離れたところから、マオちゃんは見ていた。
私の心に春一番が吹いたわ
話を聞けばすみれ先輩と虎之助くんは
小学校以前からの幼ななじみだそう…
…正直
学園のマドンナと年下小動物系少年
大好きだわっ!!その設定!
マオちゃんの鼻息荒く鉛筆を握りしめた。
小さなころから弟のようにみくもんの面倒を見てきたすみれ先輩は
思春期になった今でも色々と手ほどきを…
なんて現実にはどうかわからないけど
二人に関する妄想は日々捗るばかり
マオちゃんは、妄想する。
「あら…とらのすけも男の子ね」
と優しいまなざしを向けて虎之助の手を取るすみれ先輩と、
「やっやめて下さい、せんぱいっ」
と体をよじる虎之助。
そんなみくもんと同じクラスになったのもきっと運命…
話してみたらとても優しくて気さくな良い子だった…
***
「…マオちゃん?もう十分綺麗にしまえたよー、ずっとナデナデしてるけど」
虎之助に呼ばれて、マオちゃんは我に返った。用具しつにマットを運んで、そのマットをマオちゃんは撫でまわしていたのだ。
「ここ少し汚れてたじゃらっだからよ!」
マオちゃんは慌てて誤魔化す。
「じゃあ僕ウェットティッシュ持ってるよ」
「もう綺麗になったし!!」
と言うマオちゃんの手に、虎之助はウェットティッシュを握らせた。
「でもそれじゃあマオちゃんの手が汚れちゃったでしょ?行こっ急いで戻らないと帰りのHR始まっちゃうよ」
虎之助が笑顔で言った。
「う…うん」
…ああ
汚れているのは私の心でした
でも、妄想はやめない
だから…
マオちゃんは、虎之助に言う。
「こっ困ったことがあったら相談してね、みくもんっ」
虎之助は、話しの流れが掴めず、頭の上に「?」が浮かんだが、それでも答えた。
「うん、でもまずHR間に合わないと困るねー急ごー」
優しいみくもんが大好きよ…!
To Be Continued
『片想いシュリンク』EP*07一方的な気持ち【感想】
今回の主役は、前話でやっと名前が明らかになったマオちゃん視点の話でした。今回は、フルネームから性格から指向、そして虎之助との出会いまでが明らかになりましたね。
ついツンツンしちゃうマオちゃんにも虎之助は優しかったです。みんなが、虎之助のことを「とらちゃん」とか、「とら」と呼んでる中で、ひとりだけ「みくもん」と呼ぶマオちゃん。きっと、下の名前で呼ぶことがどうしてもできなくて、苗字の「みくも」て呼ぶうちに「みくもん」ってなったのかな、と思いました。
マオちゃん視点でみると、普段はわからない虎之助のハイスペックっぷりが分かりやすいですね。
『片想いシュリンク』EP*07一方的な気持ち【タイトル考察】
一方的な気持ちというのは、まさにマオちゃんの虎之助に対する気持ちのことでしょう。でもそれは、恋心かといえばそうではなくて、虎之助に萌えている感じです。
虎之助のことを、虎之助が思っている以上に大事に思っている、それはもう、空回り気味に。最後の会話が顕著ですよね。
マオ「こっ困ったことがあったら相談してね、みくもんっ」
トラ「?」
トラ「うん、でもまずHR間に合わないと困るねー急ごー」
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