歌詞解釈/アンパンマンのマーチ【名曲の物語を紐解く】~歌詞の意味を考える~
「アンパンマンのマーチ」はテレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のオープニングテーマ曲です。多くの幼児が通る道と言われているほど、幼児からの絶大な人気があるアンパンマンですが、このオープニングの歌詞が、幼児向けとは思えない程、深く重い内容となっています。
アニメ『それいけ!アンパンマン』の原作は、もともと絵本なのですが、この歌詞は絵本の作者であるやなせたかしさんが作詞しています。つまり、アンパンマンの内容に沿った歌詞となっている、と思いきや、少しギャップがある部分もあります。それは、この作者の戦争体験や込められた思いが背景にあるからです。
今回は、そんなアンパンマンマーチの歌詞を紐解いていきましょう。
アンパンマンのマーチ【歌詞】
そうだ うれしいんだ いきるよろこび
たとえ むねのきずがいたんでもなんのためにうまれて なにをしていきるのか
こたえられないなんて そんなのはいやだ!いまをいきることで あついこころもえる
だから きみはいくんだほほえんでそうだ うれしいんだ いきるよろこび
たとえ むねのきずがいたんでもあ あ アンパンマン やさしいきみは
いけ! みんなのゆめまもるためなにがきみのしあわせ なにをしてよろこぶ
わからないままおわる そんなのはいやだ!わすれないでゆめを こぼさないでなみだ
だから きみはとぶんだどこまでもそうだ おそれないで みんなのために
あいとゆうきだけがともだちさあ あ アンパンマン やさしいきみは
いけ! みんなのゆめまもるためときははやくすぎる ひかるほしはきえる
だから きみはいくんだほほえんでそうだ うれしいんだ いきるよろこび
たとえ どんなてきがあいてでもあ あ アンパンマン やさしいきみは
いけ! みんなのゆめまもるため出典:作詞:やなせたかし
アンパンマンのマーチ【歌詞解釈】歌詞の意味
この歌詞の理解を進めるには、アニメのアンパンマンよりも、原作の絵本のアンパンマンを読んだ方がわかりやすいかもしれません。
原作のアンパンマンは、アニメとは大きくテイストが違います。お腹を空かせた人にパンを届けるという骨子は変わりませんが、そもそもアンパンマンの雰囲気が違うのです。そして、アニメのように、助けた人と和気あいあいとした雰囲気はありません。風貌もみすぼらしく、一歩間違うと、へんなおじさんぐらいの勢いかもしれません。
そして、この歌詞を書いたやなせたかしさんは、1919年生まれであり、戦争を経験しています。そしてこの戦争で、弟さんは特攻隊員として出撃し亡くなっています。この歌の歌詞は、その経験が大きく影響されていると言われています。
そうだ うれしいんだ いきるよろこび
たとえ むねのきずがいたんでも出典:やなせたかし
冒頭から『生きる喜び』について書かれています。戦争で大切な人や物を亡くした人たちへのメセージのようにも受け取ることができます。
なんのためにうまれて なにをしていきるのか
こたえられないなんて そんなのはいやだ!出典:やなせたかし
哲学的な問いです。大切な人を亡くして、その人の分まで、ちゃんと目的をもって生きよう、生きる意味を明確にしようという気持ちが感じられます。
いまをいきることで あついこころもえる
だから きみはいくんだほほえんでそうだ うれしいんだ いきるよろこび
たとえ むねのきずがいたんでも
あ あ アンパンマン やさしいきみは
いけ! みんなのゆめまもるため出典:やなせたかし
作者はアンパンマンを誰と重ねていたのでしょうか。特攻隊で出撃していった弟さんでしょうか。それともやなせたかしさん自身でしょうか。私は、どちらでもあると考えています。亡くなった弟さんの気持ちも背負って生きてこられたのだと推察します。
なにがきみのしあわせ なにをしてよろこぶ
わからないままおわる そんなのはいやだ!出典:やなせたかし
まず君にとっての『幸せ』とは何かを問いかけています。問いが大きすぎるので、続けて『喜び』を感じることは何かを問いかけています。ただし、この『喜び』とは、『何をして』となっているので、人から与えられるものではなく、主体的に自分がすること限定です。
『きみ』に対して問いかけていますが、その直後の歌詞は、『わからないまま終わるのはいやだ』と、問いかけのアンサーを答えているようです。
これは二通り考えられます。まず、1行目の『きみ』への問いかけは、実は自分への問いかけである場合です。もう一つは、1行目と2行目で発信者が違う場合です。
2番の歌詞は、フレーズごとに『誰が』『誰に』向けての言葉なのかを考えながら解釈していくと色々な読み方ができます。
わすれないでゆめを こぼさないでなみだ
出典:やなせたかし
これは、終戦後、生き残っている人たちへ込められたメッセージではないでしょうか。
だから きみはとぶんだどこまでも
出典:やなせたかし
戦争や特攻隊を肯定する気持ちはありませんが、それでも特攻隊員として飛び立った弟は、『国のために』『国民のために』という気持ちがあったのだと推察されます。
そうだ おそれないで みんなのために
あいとゆうきだけがともだちさ出典:やなせたかし
特攻隊員は、たった一人で飛行機に乗り、敵の飛行機や戦艦に突っ込んでいく、言うなれば決死隊です。
平和や友情も描いているアニメのアンパンマンにおいて、友達を『愛と勇気だけ』に絞ってしまうこの歌詞に、違和感を感じてた視聴者も多かったのではないでしょうか。しかし、特攻隊員のことを思うと、誰も道連れにしないという『覚悟』のようなものが読み取ることができます。
あ あ アンパンマン やさしいきみは
いけ! みんなのゆめまもるためときははやくすぎる ひかるほしはきえる
出典:やなせたかし
このように考えていくと、このフレーズの『とき』とは『命の時間』のメタファーで、『ひかるほし』は『命そのもの』のメタファーである気がしてなりません。
だから きみはいくんだほほえんで
出典:やなせたかし
『君』は誰でしょうか。歌詞上で普通に考えるとアンパンマンなのですが、特攻隊で日本を発った弟さんを重ねていたと思うと、微笑みがつらいですね。
そうだ うれしいんだ いきるよろこび
たとえ どんなてきがあいてでも
あ あ アンパンマン やさしいきみは
いけ! みんなのゆめまもるため出典:やなせたかし
ちなみに、アニメのオープニングは、2番の部分が使われています。解釈を考えていても、1番よりも2番の方が思い入れが強く出ているように感じます。
アンパンマンのマーチ【タイトル考察】
『マーチ』とは『行進曲』という意味です。ですから、直訳すると、『アンパンマン行進曲』となるわけです。
もちろん、行進するために作られたわけではありません。しかし、秩序を守って真っすぐに、リズムよく進んでいく感じが、アンパンマンのイメージにぴったりと言えるでしょう。
アンパンマンのマーチ【データ】
作詞:やなせたかし
作曲:三木たかし
編曲:大谷和夫
歌:ドリーミング
「アンパンマンのマーチ」はドリーミングのデビューシングルです。収録されている同名の楽曲はテレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のオープニングテーマ曲として有名です。誰が歌っているのか、気にしていなかった人も多いかもしれません。1988年11月21日にシングルレコードとカセットテープで発売されました。その後、1989年3月21日に同内容のシングルがシングルCD(8cm)で発売されています。
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