歌詞解釈/木綿のハンカチーフ【名曲の物語を紐解く】~歌詞の意味を考える~
木綿のハンカチーフ【歌詞】
作詞:松本隆
恋人よ ぼくは旅立つ
東へと向かう 列車で
はなやいだ街で 君への贈りもの
探す 探すつもりだ
いいえ あなた 私は
欲しいものは ないのよ
ただ都会の絵の具に
染まらないで 帰って
染まらないで 帰って恋人よ 半年が過ぎ
逢えないが 泣かないでくれ
都会で流行(ハヤリ)の 指輪を送るよ
君に 君に似合うはずだ
いいえ 星のダイヤも
海に眠る 真珠も
きっと あなたのキスほど
きらめくはずないもの
きらめくはずないもの恋人よ いまも素顔で
くち紅も つけないままか
見間違うような スーツ着たぼくの
写真 写真を見てくれ
いいえ 草にねころぶ
あなたが好きだったの
でも 木枯らしのビル街
からだに気をつけてね
からだに気をつけてね恋人よ 君を忘れて
変わってく ぼくを許して
毎日愉快に 過ごす街角
ぼくは ぼくは帰れない
あなた 最後のわがまま
贈りものをねだるわ
ねえ 涙拭く木綿(モメン)の
ハンカチーフください
ハンカチーフください
出典元
木綿のハンカチーフ
作詞:松本隆
作曲・編曲:筒美京平
木綿のハンカチーフ【歌詞解釈】
この歌詞は、遠距離恋愛をすることになったカップルの往復書簡を通して二人の気持ちがすれ違っていく様が表現されています。
この時代、遠距離恋愛でのコミュニケーションは、手紙(若しくははがき)でのやりとりが基本でした。そんな若い恋人同士の、恋愛模様を垣間見ることができます。
この歌詞は、前半が男性から女性に宛てた手紙、後半が、女性から男性に宛てた返信の手紙で1番から4番までで構成されています。
恋人よ ぼくは旅立つ
東へと向かう 列車で
はなやいだ街で 君への贈りもの
探す 探すつもりだ出典元:木綿のハンカチーフ
男性から女性に宛てた手紙です。出だしから、二人の恋が遠距離恋愛になってしまいました。「東へ」「はなやいだ街」というキーワードから、地元から、東京へ旅立つことが推察されます。
男性は、遠距離恋愛にはなってしまうものの、東京へは、憧れの気持ちや、希望を胸に旅立っていることがわかります。そのため、東京で、彼女に送るプレゼントを探すと言っているのです。
いいえ あなた 私は
欲しいものは ないのよ
ただ都会の絵の具に
染まらないで 帰って
染まらないで 帰って出典元:木綿のハンカチーフ
一方、女性は、「いいえ」からスタートする文章で返信を書いています。彼女は、東京には欲しい物は無いようです。最近ですと、ジブリ映画「千と千尋の神隠し」で主人公の千尋が、カオナシに「私が欲しいものは、あなたには絶対に出せない」と言った様子が彷彿とされます。
そして、都会の絵の具に染まらないでと言っています。都会の絵の具とは、色とも言い換えることができます。しかし、そこを「色」ではなく「絵の具」としたのは、彼女の都会へのイメージが単色ではないからではないでしょうか。カラフルな色で構成されている都会に染まらないで、そして帰ってきて欲しい。
旅立ったばかりなのに、もう、帰って(きて)と言っています。さて、彼は、なぜ上京したのでしょうか。二つ考えられます。
就職か大学進学です。歌詞の中では、どちらかとは明確にはわかりませんが、この後の展開から、就職ではないかと推察されます。
では就職で上京した恋人に「帰って(きて)」と言ってしまう。恋愛では女性が待つことしかできなかったと言われる時代の歌詞です。この「帰って」は、地元に残って欲しい、地元で就職して欲しいという女性のエゴのようにもとれます。または、東京で出世して(自分を迎えに来るために)迎えに帰ってきて、とも取ることができます。
歌詞のこの部分からわかることは彼女は東京に対して、あまりいいイメージを持っていないということです。希望を胸に旅立った彼と、既に、東京に対しての捉らえ方に差が出てきています。
恋人よ 半年が過ぎ
逢えないが 泣かないでくれ
都会で流行(ハヤリ)の 指輪を送るよ
君に 君に似合うはずだ出典元:木綿のハンカチーフ
男性が上京してから半年後の手紙です。2通目の手紙というわけではなく、最初の手紙とこの手紙の間にもいくつかのやり取りがあったのでしょう。泣かないで、とあるので、そのやり取りの中で彼女が男性にさびしい旨を伝えたのだと推察されます。
そして、男性は彼女に指輪をプレゼントしています。1番で探すつもりだと言っていたプレゼントのことでしょう。婚約指輪や結婚指輪ではなくても、男性が女性に贈る指輪のプレゼントはやはり特別です。もしかしたら、女性を自分の元へと呼び寄せるつもりでいるのかもしれません。
都会ではやりの指輪を贈ることで都会にふさわしい女性になって欲しいという願いが込められているのでしょう。
いいえ 星のダイヤも
海に眠る 真珠も
きっと あなたのキスほど
きらめくはずないもの
きらめくはずないもの出典元:木綿のハンカチーフ
一方、女性は、また「いいえ」からスタートする文章で返信を書いています。せっかくの指輪のプレゼントもいらないようです。
「星のダイヤ」や「海に眠る真珠」とはどのような意味でしょうか。地球最古のダイヤモンドは、60億年前にできたといわれています。地球ができたのが50億年前ですから、それよりも前からダイヤモンドは宇宙空間を彷徨っていました。つまり、ダイヤモンドは星だったのです。
また、天然の真珠は、海の底の貝の中にあります。つまり、「星のダイヤ」も「海に眠る真珠」も人工のものではなく、本物の宝石ということになります。もらった指輪を本物の宝石に喩えているというのは、ただの流行の安物ではないということでしょう。
しかし、指輪よりもキスの方がきらめく、と彼女は言っています。彼のことが好きだという気持ちは、強くあるものの素直にプレゼントをありがとうと受け取れない彼女の生き方が垣間見えます。きっと彼女にも、地元を離れることができない思いや事情があるのでしょう。
恋人よ いまも素顔で
くち紅も つけないままか
見間違うような スーツ着たぼくの
写真 写真を見てくれ出典元:木綿のハンカチーフ
3番では、男性が女性との価値観の違いを明確に感じていることが分かります。いいスーツを着た自分の写真を送り自分とつり合う女性になって欲しいと暗に言っているのではないでしょうか。
男性は上京して、仕事がうまく行っているのでしょう。お金を貯めて少しいいスーツを買ったことが推察されますし、その行動から、仕事に対して前向きに取り組んでいると言えるでしょう。出世とまではいかないかもしれませんが、成果を上げているのでしょう。
いいえ 草にねころぶ
あなたが好きだったの
でも 木枯らしのビル街
からだに気をつけてね
からだに気をつけてね出典元:木綿のハンカチーフ
一方、女性は、また「いいえ」からスタートする文章で返信を書いています。立派なスーツを着た姿よりも、田舎で、自分の隣で草の上に寝転ぶ姿が好きだったと言っています。今の男性のことをほめる様子は全くありません。
しかし、価値観は違えど、季節の変化に対して男性の身体のことを気遣っています。男性を愛する思いは変わっていないのでしょう。
2番では、上京から半年過ぎたころの手紙でしたが3番では「木枯らし」というキーワードから季節が変わったことがわかります。
1番の上京した時点での季節は、おそらく春、4月からの就職で、上京したのは3月の終わりくらいでしょう。そして半年たった2番は9月頃、木枯らしの吹く3番では11月頃だと推察されます。
恋人よ 君を忘れて
変わってく ぼくを許して
毎日愉快に 過ごす街角
ぼくは ぼくは帰れない出典元:木綿のハンカチーフ
4番では、ついに男性が女性を振っています。帰ってきて欲しいと願う彼女に対して「ぼくは帰れない」と言っています。1番の彼女からの「帰って(きて)」へのアンサーでもあります。
彼女よりも都会での楽しい生活を選んだ、と言ってもいいでしょう。でも、毎日愉快に過ごしているのは「街角」であり、決して「僕」ではありません。心変わりをしてしまったのは自分の方なので大々的には言えませんが、寂しい気持ちもあるのでしょう。
破局の原因は、都会に行って変わってしまった価値観ですが男性は、「僕を許して」と、自分が全部悪いように説明しています。しかし、彼女にも、男性の価値観に歩み寄る姿勢は全くありませんでした。返信がすべて「いいえ」から始まっている点でも明らかです。それでも男性は、自分が全て悪いと、男らしく全てを引き受けています。
あなた 最後のわがまま
贈りものをねだるわ
ねえ 涙拭く木綿(モメン)の
ハンカチーフください
ハンカチーフください出典元:木綿のハンカチーフ
振られた女性の返信は、駄々をこねるでもなく、最後のわがままにと木綿のハンカチをねだって別れを受け入れます。アルマーニのハンカチでもなくエルメスのスカーフでもなく木綿のハンカチをねだります。
木綿のハンカチなら、きっと地元でも手に入ります。彼女は、都会でしか手に入らないものが欲しいわけではなく
自分に合ったハンカチを彼に贈って欲しいのです。最後の最後まで、自分の価値観がぶれない女性です。
歌詞全体を通して、男性は上京して、価値観も変わり、最後には心変わりして、このカップルは破局を迎えてしまいます。女性は、一貫して、自分の殻から出てはきません。頑なで、歩み寄ろうともしません。
勝手な感想ですが、このカップルは別れてよかったと思います。思えば、最初から、価値観にズレが生じていたのです。
男性はこの先、東京で出会った、地方出身の女性と恋に落ちるのだと思いますし女性は、地元で暮らす年上の男性と結婚するのだと思います。
この歌詞は、男性と女性の書簡が交互に歌われていますが基本的には女性側に立った歌だと思います。なぜなら、デュエットソングではなくて、女性が歌っているからです。男性は勝手で、女性はいじらしくも、ずっと待つしかないという、そんな恋愛スタイルが主流だった時代の歌詞です。
木綿のハンカチーフ【タイトル考察】
歌詞の一番最後に「木綿のハンカチーフ」という言葉が出てきます。当時、「木綿」という言い方はもう死語で、
「コットン」という言い方をしていたようです。あえて、新しいコットンという言葉ではなく、語である「木綿」という古い言い方をする彼女。
最後の最後まで、自分の価値観がぶれない女性ですが、「木綿のハンカチーフ」は彼女の生き方を象徴するようなアイテムとして、歌詞の中に登場しました。
木綿のハンカチーフ【データ】
木綿のハンカチーフ
作詞:松本隆
作曲・編曲:筒美京平
歌手太田裕美さんの4枚目のシングル曲。150万枚以上売上げ、この曲で紅白歌合戦に出場するなど、当時、大変流行りました。
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