web漫画/カカオ79%【あらすじ&感想140話】~残り21%の甘さ~
140:大事なネガネの友人達
【あらすじ】
勇は舞台袖で、開演を待ちながら考えていた。頭の中には、転校早々、男子に混じってサッカーをする翼や、中学の頃、バスケで男子と賭けをする翼が思い出されていた。
すかり忘れていたけど
翼はもともと女子より男子とよく連るむやつだった
その度、俺は焦ったり妬いたりしてたし
正直いつも翼の周りをウロチョロしてる委員長のことも気に食わなかった
お祭りで、男子に囲まれて記念撮影をした写真や、登校日に廊下を歩きながら話し込む、翼と委員長の後ろ姿を見ていたことも思い出していた。ついでに、その後、鼻血を出して女子生徒に殴りかかろうとする天童さんも思い出した。
だから、こんなの(天童さん)でもいいから
女子に友人をいっぱい作ればいいのにと思っていたが……
翼が、過労で倒れて顔にタオルをかけて床に寝ている委員長を心配そうに覗き込んでいたその姿も、勇は目に焼き付いていた。
「綾野さんの仕事こっそり手伝ってたって、委員長まじ委員長だよね」
勇は、クラスメイトからそのことを聞いた。
***
「長らくお待たせしました。これより1年B組による『メガネロミオとジュリエット、そして…』を上演します」
舞台袖にいる勇は、ジュリエットの衣装のまま、拳を握りしめた。
…本当、参ったよ
俺が自分のことでいっぱいいっぱいで翼を傷つけていたこと
その時に側で力になっていたのは委員長だったってことを
頭を引っぱたかれて思い知らされたような気がする
嫉妬を超えた感謝の気持ち
そして自分のちっぽけさに呆れて
なるほど
翼のやつが「友達」じゃなくなることを「恐れていた」のとは別に「嫌がってた」理由が少しわかった気がする。
そんな風に考える勇の横で、翼は極度の緊張で震えながらも、冷や汗がダラダラだった。心の中で、祈り、呪文を唱える。
「どうか無事に終わりますように。神様仏様天童様」
勇は、そんな翼の横で、涼しい顔をしたまま考え続ける。
翼は蛍に手伝ってもらって、台本を読んでいた。
自分の家で、大道具で使う葉っぱたちをチョキチョキ切っていた。
風邪をこじらせる自分と、家で台本を読み合わせてくれた。
言い訳をするように俺に今できることを必死で探した
翼の耳は、緊張しながらも、舞台袖奥から聞こえてくるヒソヒソ声をとらえていた。
「おい本当にこれで大丈夫なのかよ」
「知らねぇよ、もう時間もないし」
「終わりだろ、うちのクラス…」
翼はクラスメイトの顔を思い出す。最終的には申し訳なさそうな眼差しを向けた大道具班。
「ごめん綾野さん…!最初に私たちが無理やり頼まなければよかった…」
そう言ってくれた、パリス役をごり押ししてた衣装&メイク係の子たち。そして、委員長。
大丈夫、この劇は私が必ず成功させる
そう思いながら、翼は両目をギュッと瞑った。
「おいゴリス」
横で勇が小声で翼を呼ぶ。
「あぁん?!」
パリスでもなくゴリラでもなく、ゴリスという呼び方に、小声ではあるが思わず反応してしまう。
「俺もセリフは全部覚えてんだよね、だからそんなに緊張しなくていい」
翼の表情が柔らかくなる。
「本気だしてやるから」
勇は真っ直ぐ前を向いて言った。翼はそんな勇の顔を見上げていた。
皆がやりたくない面倒なことを全部自分に回されたとは思わないか?
まだ準備が始まったばかりの頃、勇は翼を心配するあまり、そんな風に嫌な言い方をしたあの勇が。翼は、口が半開きになるほど驚いていた。
あんなに捻くれてやる気のなかった勇リエットが…
***
モブ男のナレーションで劇が始まった。
「むかしむかーし、ヴェローナに長い間対立してきた二つの名家、モンターギュー家とキャピュレット家がおりました:
モブをはマイクを右手に、台本を左手に、舞台の橋でピンスポットを浴びながら話す。幕が開く。
「ある日、キャピュレット家で行われた舞踏会では、キャピュレット家の美しい一人娘のジュリエットがその美貌を誇っておりました」
舞台上にジュリエット扮する勇が登場した。
「お母様、お母様はどこ?」
観客は度肝を抜かれていた。そして、それぞれにいろんなことを思う。
「ビック…ビックなジュリエット!!」
「確かに美人だけど…声低いわ!!」
「お母様すごい首いそう」(身長差)
劇は続く。
「お母様、わたしもう飽きました。部屋に戻ってもいい?」
「ダメですわ、もうすぐパリス伯爵がこられるわよ」
1年B組の面々は感動していた。
「あああ、あのずっと死んだ魚の目をしていて、棒読み(わざと)でノーモーションだったジュリエットが…生き生きしてる…!!」
棒読みで舌打ちしていた勇を思い出しながら、何てことだ、と感動しているのだ。
一方、客席も、美しき勇リエットに感動していた。一気に写真のシャッター音が鳴り響いた。
舞台袖では、翼も、仕草まで完璧なことには複雑な気持ちになりながらも、感動していた。
勇…本当に本気出してくれてる
「そのジュリエットには昔ながらの婚約者がいまして…」
のナレーションに合わせて、パリスにGOサインが出された。いよいよ翼の出番だ。
客席の反応も悪くない
いける…
これはいけるよみんな…!!
と、気合を入れて翼が舞台上へ歩いていく、第一歩目で、足元からキュッと音がして、つる~と滑って転んだ。
「ぐえぇっ」
「幼いころからジュリエットを見守ってきた兄のような包容力、頼りになる男、パリス伯爵です」
翼のパリス役を説明するナレーションが流れる中、翼は万歳の姿勢のまま床に倒れ込んだのだ。舞台袖にいたクラスメイトも、舞台上にいた役者も、客席も、みんな驚いていた。カメラを構えた蛍は、プッと吹き出した。
あ、終わった
ヒールとか無理だから…
床にダイブしながら、翼は思う。
せっかく天童さんが
助けてくれるっつーのに
***
「何、助けがいるの?」
モブ男が抜擢した、メガネのロミオ役はたまたまその場に居合わせた、メガネをかけた天童さんだった。
「は?おま…今何て…熱?!熱あるか?!」
勇が言う。
「天童さん今「助け」って言った?!「助け」って単語知ってる?!」
翼が言う。
「ぶっ飛ばすぞ」
天童さんは二人に向かって言った。
モブ男が説明する。
「実はメガネのロミオ役の人が倒れちゃって代わりの人が要るの。俺ナレーションだけどフォローするから、舞台に突っ立ってもらえるだけでいいんだけど…」
「いやでもクラスの出し物に他のクラスの助けを借りるのって…あり?」
横から翼が口をはさむが、誰も聞いていない。
「ちなみに」
モブ男はあやしく目を光らせて、続ける。
「一ノ瀬君の相手役です」
天童さんの真横に、さっとウサギ姿の橘君が寄ってきて、小声で天童さんに言う。
「やめろ天童」
一同は、この前天童さんがした公開告白の事を思い出していた。
「何だ?それが何の関係が…?」
相手役だから何だと、聞く勇にも、一拍遅れて、天童さんの公開告白の記憶が蘇ってきた。思い出されては、ゾッとする。
「引き受けた」
天童さんは言った。目を光らせたまま万歳をするモブ男と、ぎこちない動きになる勇と、
こいつ…まだ続けるつもりか
と、イラっとする翼。
「こ、こちらへ」
緊張気味に案内するモブ男と、いいのこれ?と遠巻きに見つめるクラスメイト達。そんな中、天童さんは、ちらっと翼の方をみて、2人は目があった。
***
せっかく天童さんが
助けてくれるっつーのに
ヘマしてばっかりじゃいらんねーよ!!
「うりゃああ!!」
翼は、うつぶせで転んだあと、雄たけびを上げながら、何度か腕立て伏せをした。観客もモブ男も驚いた。
息を切らしながら、立ち上がって、パリス扮する翼が言う。
「よぉジュリエット、元気してたか?」
「男らしい!なんて男らしいんだパリス伯爵!!」
ナレーションのモブ男が言った。
「パリス伯爵、今日も相変わらず頼りになる男らしさだぜ」
「おーと!ここでナイスフォローティボルト!えーとこちらはジュリエットの従兄にあたります!」
ナレーションが実況っぽくなっていることに、一同は衝撃を受けていた。
勇が翼に、よく凌いだ、と耳打ちし、翼も任せろ、と言う。
「こうやって舞踏会の真っ最中、こっそり紛れ込んだ仇敵モンターギュ家の者が一人いまして…」
ナレーションは続く。いよいよネガネロミオの出番が近づいてきた。
必ず成功させて見せる
私とみんなのために頑張ってくれた委員長のために
気の迷いで助けてくれた天童さんのために!
必ず!
「彼はときたら、村一の色男、モンターギュ家の一人息子」
ナレーションが続く中、舞台上も、舞台袖も、観客も、この日一番の衝撃を受けた。
舞台上には、全身黒タイツにメガネをかけた、メガネ役の天童さんと、天童さんにつかまって真っ青な顔のロミオ役の委員長が2人ならんで出てきていた。
「メガネの、ロミオです」
・・・終わりだ
何で二人とも…と勇は思い、あ?と、翼は言葉にすらならない。
To Be Continued
【ネタバレ/伏線回収班】
転校早々、男子に混じってサッカーをする翼の話→『カカオ79%』04:迷惑【あらすじ&感想】
中学の頃、バスケで男子と賭けをする翼の話→『カカオ79%』66:夏の風と音と匂い(1)【あらすじ&感想】
お祭りで、男子に囲まれて記念撮影をした話→『カカオ79%』24:花火大会(2)【あらすじ&感想】
登校日に廊下を歩きながら話し込む翼と委員長の話→『カカオ79%』56:登校日(3)【あらすじ&感想】
鼻血を出して女子生徒に殴りかかろうとする天童さんの話→『カカオ79%』57:壁【あらすじ&感想】
パリス役をごり押ししてた衣装&メイク係→『カカオ79%』91:わくわく【あらすじ&感想】
翼が神様仏様天童様と唱える話→『カカオ79%』105恋する乙女たち(4)【あらすじ&感想】
翼は蛍に手伝ってもらって、台本を読んでいる話→『カカオ79%』92:複雑な気持ち【あらすじ&感想】
公開告白の話→検索 109: 『カカオ79%』109:恋したい乙女たち(3)【あらすじ&感想】
【あらすじの続きはこちら】
4月22日更新予定
前の話→『カカオ79%』139:大事なメガネの友人【あらすじ&感想】
【感想】
タイトルを見た瞬間に、先週のタイトル『大事なメガネの友人』が、『大事なメガネの友人達』と複数形になっていて、先週は委員長の話だったので、おぉ、これは天童さんの話か、とウキウキしながら読み始めました。
結果として、大事なメガネの友人達の『達』は、天童さんのことだったのですが、斜め上からの発想だったので、度肝抜かれました。「メガネのロミオ」じゃなくて、「メガネ」と「ロミオ」って。。。モブ男の発想???天童さんをこちらに、と連れて行ったのがモブ男だったので、きっとそうだと思いますが。。。
見ている観客よりも、舞台上&舞台袖も人たちのほうが、劇の展開にはらはらしてるって言う、面白い状況ですね。せっかく、勇が覚醒して、翼も気合十分、クラスメイトの士気も、前回の委員長で団結力が高まっているはず(?)の中の、メガネ役の天童さんの投入でした。
本当は、最後に来るまでに、いろいろと思うところはあったのです。勇の委員長に対する焼きもちや感謝の気持ちとか、気負っている翼への「本気出す」発言とかに対しても、色々思ったんですが、最後の天童さんの登場で見事に全て吹っ飛びました。。。
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