『片想いシュリンク』まさかの恋愛ファンタジー冒険譚
『片想いシュリンク』EP*02 ちいさなこころ【あらすじ】
すみれちゃんの好きな人、アオイくんが好きな人に告白したってことを本人の口からきいてしまったすみれちゃんは、
「くしゅん」
と、くしゃみをひとつした。
虎之助がすみれちゃんの方をみると、すみれちゃんの顔には「しょっくです」とはっきりと書いてあり、くしゃみと一緒に魂が大きく前に飛び出しかけていた。
「あ…」
それに気づいた虎之助は慌てた。
「え…えっとえと、そーだ!アオイくんごめん!!」
「え」
虎之助の慌てように、アオイくんは驚いた顔をする。
「すみれちゃん今日ずっと体調悪いみたいで!というわけでその話はまた今度聞くよ!」
「お、おおう…おだいじに」
パタン、バタバタと虎之助とすみれちゃんは、お店の外に出て行った。軒で、すみれちゃんがしゅとんとしゃがみ込む。
「す、すみれちゃん!?大丈夫?」
おろっとする虎之助に構わず、すみれちゃんは
「ううああああん、ぶぐあああおげええぇぇんあううううう」
と豪快に泣き始めた。
「泣き方!!すみれちゃん、まだここ外だよ、すみれちゃん!」
虎之助があわてて言う。そして、泣くのを我慢するすみれちゃんの腕をひっぱって、自分の家まで連れて行く。
「むぐううううううううううううううんぐ~~」
とすみれちゃん。
「うんうん、ちゃんと我慢できててえらいねー、お家まであと3歩だよー、いい子だねー」
「ぶぐううううううううううううううんぐ~~」
***
すみれちゃんの家は老舗の大きな家具屋さんで
僕の家みくもや手芸店のお得意様です
いつからだかはっきりとは覚えていないけど
物心ついた頃には
いつも2人一緒に遊んでいました
僕より2つ年上のすみれちゃんは
昔からとてもよくできたお姉さんで…
大人の前では決してそれがゆらぐことはありませんでした…
***
3歳くらいの虎之助と、5歳くらいのすみれちゃんが一緒に遊んでいた。
「すごいわ、とら!じょーずじょーず!」
積み木を組み立てる虎之助をすみれちゃんが褒めた。そこに、虎之助のおばあちゃんが顔をだす。
「あらあら、優しいお姉ちゃんが出来てよかったね、とらちゃん」
「おばーちゃん」
と虎之助。
「さくらこさん!」
すみれちゃんも言う。
「ちょっとお届け物してくる間、お留守番お願いできるかしら?10分くらいで戻るわ」
おばあちゃんが二人に言った。
「はい!とらのめんどうは私がみるから安心して、おしごとがんばってください!」
と返事をするすみれちゃんの横で、虎之助も笑顔でいってらっしゃいと手を振っていた。
「まあ!よろしくね、すみれちゃん。おやつ置いとくわね」
おばあちゃんが行ってしまってしばらくすると、すみれちゃんが積んであった積み木を、こつっとこずいた。積み木はガラガラ、と音を立てて崩れた。
「すみれちゃんあきちゃった?」
くまのぬいぐるみで遊んでいた虎之助は、すみれちゃんの方に目をやった。
するとすみれちゃんは、目に涙をいっぱい溜めて、泣き出した。
「う、うぐ、ぱぱ…まま…」
虎之助は、そんなすみれちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。
***
…だけどすみれちゃんは
本当は泣き虫で
寂しがりやさんなのです
そして僕はそんなすみれちゃんの涙には弱いのです
虎之助は、おばあちゃんが今日家にいなくてよかったぁと思いながらうさぎの耳のついたクッションに顔をうずめる。虎之助の家で、虎之助の部屋だった。
「…それにしても、顔を洗いに行っただけにしてはもどってくるのが遅いなあ…」
と、虎之助はすみれちゃんのことを思う。そして背筋がぞわっとした。
まさか思いつめて!
お風呂に水をはって、ここでおぼれてしんでやるー
なんてことに!?
「大変だ!!!すみれちゃん、早まらないで!!」
虎之助は洗面所まで走り出した。ガラッとドアを開ける。が、洗面所はもぬけのからだった。
「…いない、でも服が落ちてる」
虎之助は、すみれちゃんのセーラー服を拾い上げた。
「すみれちゃんおふろ?」
「どらぁ」
下の方から声がした。虎之助が下を見ると、
「こ…ここっ」
「え?」
小さくなったすみれちゃんが、はだかんぼうで鞄の下にはさまれていた。
「た…たすけて…」
「すみれちゃん…!?」
虎之助は驚いた。
***
「…とりあえず、僕はすみれちゃんが生きててくれてよかったよ…」
虎之助がミシンを触りながら言った。そして、完成した服のリボンを、キュッとすみれちゃんの背中のところで結ぶ。
「ねぇ、本当に何か変なもの食べたりしてない?」
虎之助が聞いた。
「食べてないわよ!あとなんで死ぬ話になってるの?こわい!!」
すみれちゃんが少し怒った口調で言った。
「だけどとらが器用で助かったわ…服ありがとう」
「不思議の国のアリスだったら一緒に服も縮んだのにね」
虎之助が真顔で言う。
「やだこの子、ツッコミどころがおかしいわ…」
そしてすみれちゃんは、びえええんと泣き出した。
「幼なじみの身体が急に小さくなったのよ!もう少しなんか疑うとか!驚くとか!泣いて慌てるとか!なんかないのかしら!!」
「おばあちゃんが、「世の中にはいろんな不思議なことがあるものよー」っていつも言ってるし…」
虎之助が言う。
「さすがとらのすけ。おばあちゃん子。おかげで私も少し落ち着いてきたわ…虎が幼なじみでよかった…」
すみれちゃんの言葉に、虎之助はエへへと照れた。
「さくらこさんの言葉を借りるなら、そうね…これはバチがあたったってことかしら」
手芸セットのはりやまに座りながら、すみれちゃんはどよーんと肩を落とす。
「なんで?すみれちゃんは何も悪いことしてないよ?」
「心の中で思ったもん…どうして私がアオイくんに選ばれないんだろうって…勉強だって大人っぽく思われるように振る舞ってたのも、年上のアオイくんに必死で追いつこうとしていたからで…」
以前の、喫茶店でのやりとりを思い出す。
「アオイくんのお蔭で満点とれたわ」
「よし、またいつでもみてやるよ」
その横で、虎之助が
「僕もー」
といっていた。
「すみれはコーヒーがすきなんだな」
「うふふ」
その横で、虎之助が
「あつい」
顔をしかめていた。
「すみれは大人だな」
アオイくんはそう言って、すみれの頭を撫でた。
「…私は、ずっとアオイくんのことが大好きなのに…って…でもそんな心の小さいこと考えている子はアオイくんもきっと嫌いだわ…だからバチが当たって身体までこんなに小さくなっちゃったのかも…」
「…すみれちゃん」
虎之助は小さくなったすみれちゃんをみつめた。
こんなに思いつめるほど
本気でアオイくんのこと…
虎之助は、すみれちゃんの頭をそっとなでた。
「大丈夫だよ、すみれちゃんは僕にとっては大きな存在だよ!だから、僕が絶対助けるからね!」
僕だってすみれちゃんに
振り向いて欲しいけど…
泣いているのを
放っておけないよ!
To Be Continued
『片想いシュリンク』EP*02 ちいさなこころ【感想】
第二話は、二つ驚いたことがありました。
なんとなんと、一話で幼馴染同士の恋愛ストーリーが始まったとおもったら、ヒロインが小さくなってしまいました。まさかのファンタジーでした。きっと、恋愛模様や恋心も、丁寧に、そして面白くかいてくださるとは思いますが、このようなファンタジー要素が入ってくるとは思ってもみませんでした。
そしてもう一つが、ヒロインすみれちゃんの、思った以上のポンコツっぷりです。表面上はしっかりしていて、実はちょっとおっちょこちょいとか、そういうレベルではありませんでした。
泣きっぷりも半端じゃないですね。涙は女の武器、と言いますが、武器になる涙はそういう涙じゃないはず・・・それでも見事に虎之助はその涙に陥落していますね。
『片想いシュリンク』EP*02 ちいさなこころ【タイトル考察】
すみれちゃんが思う自分の心の小ささが招いた悲劇が、身体が小さくなる、ということでしょうか。すみれちゃん、相当思い詰めていますね。
好きな人に好きな人がいることが分かって、自分が選ばれなかったことを嘆いてしまうのは、心が小さいのでしょうか?当たり前の気持ちだと思います。けっしてそんなことないよ、って言ってあげたい、と思ったら、虎之助がきっちりフォローしてくれていました。
身体が小さくなったことよりも、その原因が、ちいさなこころに対する罰、というタイトルが、ちっとズレているけど一生懸命なすみれちゃんらしくていいと思います。
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