『片想いシュリンク』まさかの恋愛ファンタジー冒険譚
『片想いシュリンク』EP*01 好きな人の好きな人【あらすじ】
立てば芍薬
座れば牡丹
歩く姿は百合の花
そんなことわざがあるけど、確かに花の名前をもつ彼女にはぴったりだと思う
大星すみれ
彼女が歩くと花が咲いたように周囲が明るくなる
優しくてきれいなうちの学校の生徒会長
…そして…
僕、三雲虎之介の
2つ上の幼馴染です
「虎之助」
すみれちゃんが廊下で会った虎之助にとことこと近づいてくる。
「ちょっと待って、ネクタイが曲がっているわ」
「え…そ…そう?ですか?」
虎之助はたじたじの反応をする。
「仕方のない子ね、じっとしてて。私が直してあげる」
すみれはそう言うと、少し体をかがめて、虎之助のネクタイを直した。虎之助は赤くなる。
「う…はい」
「よし、できたわ」
すみれが虎之助の顔を見て言った。
「あ…ありがと…すみれち…先輩」
虎之助もすみれちゃんの目をじっと見つめた。
すみれちゃんと、その友達が、手を振りながらその場を離れて言った。虎之助と、虎之助の友達も、遠慮がちに手を振りかえす。
「いいなぁーとらのすけ!」
先輩たちが行ってしまうと、虎之助の隣にいた男子の友達が声を上げる。
「俺、今度から廊下ではネクタイ曲げて歩こう!!」
「あはは」
虎之助が笑った。
「なにをバカなこと言ってるのよ…」
虎之助の隣にいたメガネをかけた女子の友達が口をはさむ。
「それにしてもすみれ先輩、相変わらずの人気者ね」
虎之助をはさんで反対側の隣の男子の友人が返す。
「そりゃそうだろ、スラッと背が高い美人で、頭もよくてその上高3にしてあの大人っぽい雰囲気。落ち着いた人だから男子だけじゃなくて、女子からも支持されるよな。とらのすけとすれ違うと何かと話しかけてくれるしな!」
男子の友達は、そう言うと、よーしよしよしと虎之助をなでくりまわす。
「まるで弟を可愛がってるみたいで微笑ましいって周囲からも好評だよ」
女の子の友人も言った。
「弟って…そんな、僕はこんなに大好きなのに…」
虎之助が困った顔して言った。
そんな自慢の幼なじみは
いつだって目立つ存在で
だから…
この気持ちは
僕の一方的な片思いなのです…
***
放課後。
「とらのすけ、待ってたわよ!さあ一緒に帰りましょう」
すみれちゃんが笑顔で虎之助を迎える。
「…うんっ」
彼女とは家が近所なので
生徒会の無い日には
訳あってこうして一緒に帰っています。
「くっしゅ」
一緒に歩く帰り道、虎之助の横ですみれちゃんがくしゃみをした。
「すみれ…先輩、風邪?」
虎之助が聞く。
「せんぱーい!また明日!」
遠くで誰かがすみれちゃんに挨拶をしていた。すみれちゃんはその声に、小さく手をふりながら、虎之助に答える。
「うーん…なんか今朝、花の匂いをかいでからちょっとね…花粉症だったかしら…?」
「病院行く?」
という虎之助に、すみれちゃんはあっさり
「平気よ」
と答えた。
「…でも、お店に着いたら恥ずかしいから頑張って我慢するわ」
すみれちゃんが少し顔を赤らめて言う。
その理由がこれ
すみれ先輩…
すみれちゃんには好きな人がいるのです
***
カラン、とドアの音を立てて二人は喫茶店に入る。
「おー!おかえり!すみれ、虎之助」
喫茶店の中で、アオイくんがさわやかに迎えてくれた。
「ただいまアオイくん」
と虎之助。遅れてすみれちゃんも言う。
「た…ただいま」
「さっきちょうど新しい豆が届いたんだ…いい香りだろ」
コーヒーカップを下げながらアオイくんが言った。
「そうなの?いつもとそんな変わらないけど」
「なんだとー!」
さっそく会話が弾む。
「とらのすけはお子様だから分かんないんだな!」
「なんだと―!!あはは」
虎之助が、さっきのアオイくんの真似をして言う。
「まったく、すみれにはわかるだろう?」
アオイくんは、下げてきたお皿やカップを洗いながら話す。
「ごめんなさい、ちょっと鼻炎気味で…アオイくんは匂いで分かるの?」
「まさか、犬じゃあるまいし、味はわかるけど」
「なんだと…!」
すみれちゃんも真似をする。
このおしゃべりなお兄さんは天野葵くん
ここ、喫茶ノエルのマスターの親戚でお店のお手伝いをしています
商店街にある「喫茶ノエル」と僕の家「みくもや手芸店」はお店がお向かいさんで
小さいころからこうしてお店によくお邪魔しています
すみれちゃんと虎之助は、喫茶店の席に向かい合わせに座ると、鞄からノートを取り出した。アオイくんが、カップにふわふわのクマさんがデコレーションされた飲み物を、2人分持ってきてくれた。
「そういやすみれ、この前苦手って言ってたとこどうだった?」
アオイくんが聞く。
「あっうん、アオイくんに教わった方法でしっかり覚えられたわ」
「そっか、それは良かった!あの辺はつまづくよな」
すると、お店の奥からマスターが顔を出した。
「アオイくん休憩入っていいよ、2人ともいらっしゃい」
「あ、はい!よし!じゃあ今日も二人の宿題みてやるかー!」
アオイくんが笑顔で言った。
「う、うん」
すみれちゃんもぱあっと笑顔になる。
アオイくんはこうしてよく
自分の休憩時間に
僕らの勉強や話し相手になってくれます
面倒見が良くて
気さくで優しい
憧れのお兄さん
だけど
僕の…
…ライバルです
すみれちゃんが、アオイくんの説明を聞いて、とびっきりの笑顔になった。虎之助はその横顔を見つめていた。
「…ところでさ」
おもむろに、アオイくんが切り出した。
「すみれって他の高校生と比べて大人っぽいし、やっぱ学校じゃモテるのか?」
それをきいたすみれちゃんは、顔が真っ赤になる。すみれちゃんの頭の中で何かが噴火したようだ。虎之助は、横でこくこくとうなづいていた。
「…そこで相談なんだけど…」
アオイくんは二人の様子はあまり気に留めず、話しを続けた。
「…その、男に告白されたとして、返事を保留にするのって断り文句探してる時なのかな?…なんて…」
すみれちゃんも虎之助も固まる。すみれちゃんは頭が真っ白になっている。
告白…
保留?
つまり…
「…え?えと…それって」
虎之助はなかなか言葉にならない。
「うわぁータイミングしくったかなー俺、やっぱこれフラれると思う?」
アオイくんは、両手で自分の頬を押さえていた。そんなアオイくんを真っ直ぐにみたまま、すみれちゃんは、口から魂が飛び出しはじめていた。
アオイくんが好きな人に告白したってこと…!?
「くしゅん」
すみれちゃんがくしゃみをひとつした。
To Be Continued
『片想いシュリンク』EP*01 好きな人の好きな人【感想】
前作から読んでいるこの作者さんのファンの方は、あんなにも面白かった「ももくり」の作者さんの待望の最新作、ということでどうしても期待値が上がってしまいますし、どうしても「ももくり」とついつい比べてしまいますね。
絵は、期待通りでした。ふんわりとかわいらしい絵です。そして、学校が舞台の、恋愛漫画(?)、ももくりを彷彿とさせます。キャラクターは、ヒロインが年上で表面上はしっかりさんという共通点があるものの、主人公ではない別の男性に恋しているようです。
今回、追っかけるのは、年下の男の子の方なのでしょうか。そのあたりが、ちょっと楽しみですね。第一話にして、ヒロインがいきなり失恋してしまいましたけど、幼馴染の虎之助くんがなぐさめてくれるのでしょうか。
『片想いシュリンク』EP*01 好きな人の好きな人【タイトル考察】
エピソードタイトル「好きな人の好きな人」というタイトルでした。これは虎之助から見たアオイくんのことでしょう。虎之助の好きな人がすみれちゃんで、すみれちゃんの好きな人がアオイ君です。
1話では、アオイ君が好きな人に告白をしたと言っています。その相手がだれか、というところまでは言及していません。でも、このタイトルが、すみれちゃん目線でもあると考えると、もしかしたらすみれちゃんや虎之助が知っている人なのかなって思いました。
ちなみに、同じCOMICOで、「カカオ79%」という幼馴染の恋愛漫画の146話のタイトルも同じ「好きな人の好きな人」でした。
「好きな人の好きな人」という言葉、なんて切ない言葉なのでしょう・・・。
コメント