『カカオ79％』247：執着（5）【あらすじ＆感想】

247：執着（5）

「傷つけるのが怖くて自分の気持ちを確実にしておかないと、いつか相手の気持ちの強さに飲み込まれるかも知れない。今回それを強く思い知らされたから」
教室へと向かう廊下を歩きながら、翼は委員長に話した。

「でも綾野さん達の場合は両想いの恋仲ですし、会話し続けてお互い納得のいく妥協案を探していくことが大事かと…極端に考えずに」
委員長の助言を聞きながら、2人は教室に入る。

勇は自分の席に肘をついて座っていた。翼が教室に入ってきたのをちらっと確認する。

「…そうだね」
「じゃあまた後で…」
委員長は自分の席へ、翼も勇の隣である自分の席へと向かう。

愛情
執着
嫉妬
独占欲

色んな気持ちが混ざりあっているからこそ
恋は難しいと
私はよく知っていたはずだ

翼は勇が驚くくらい勢いよく、ストンと席に座る。何も話さない。
「おい、いつまで無視する…」
耐えかねて勇が口を開くが、
「あんたが私と先輩にちゃんと謝るまで」
と怖い顔で言い返される。

そのあまりの形相に勇は素でビビった。
「それまではなしかけんじゃねぇよ、まだ怒ってんだから」
翼が言う。

自分にも
相手にも
飲み込まれないように

ちゃんと自分を保たないと

自分が感じて来た
恋の難しさを
見苦しさを
虚しさを

思い出して学習するんだ

翼は今までのことを思い出す。

『他の女の子にあまり優しくしないで』
翼の言葉

『今後一切お前以外の女子とは喋らないってことも出来るんだぜ？』
勇の言葉

中学の頃の写生大会の日、勇と愛ちゃんがキスをしている所を隠れて見てしまったあの日の気持ち

橘君にフラれた天童さんが、翼たちの差し入れのお粥にしたやつあたり

勇のファンから受けた翼への嫌がらせ
『あんたさー一ノ瀬君の彼女じゃないんだって？』
と言われたこと

あんな風になりたくないと
常に思い続けろ

重すぎる気持ちは結局
周りを息苦しくするだけだ

あれから、授業中は目も合わせず、休み時間は、勇が気がつくころにはもう席を離れ、移動中は無視。一緒にいる委員長は、勇の視線と二人の雰囲気にあわわわと戸惑っていた。

放課後。
「委員長と用事あるから先に帰ってね」
翼が勇に言う。今日一日の様子を見ていた勇の友人の土井、渡辺コンビも、何かを察していて、あらまー、と見守っている。天童さんも静観していた。

「俺そんなに悪いことしたかぁ？！」
翼が行ってしまってから勇が叫ぶ。
「したな」
天童さんがすかさず言う。

「ずっと見て来て分からないのか？あいつは人を失うのを最も恐れている。それをテメェが勝手に引き裂いたもんだから怒って当然だ」

天童さんの説明に勇は食い下がる。
「じゃあ黙って見とけってか！？自分の彼女の周りをウロチョロしている野郎を？！」

「まぁ…その気持ちは分からなくはないけど…でもあんま自惚れない方がいいかもしれない」
天童さんが淡々と言う。

「は？俺が？自惚れる？」
勇は言われた意味が分からず聞き返した。

『俺が振られるわけねぇだろう』

肝試しの時、勇はそう言っていた。自信満々で嫌なやつ過ぎだ。天童さんは今までのことを思い出しながら話す。

「テメェは告る前から自分が振られるわけねぇと確信していたし、実際いざこざはあったけど今はあいつと付き合っている。それってあいつが今みたいに人との繋がりを大事にする情の深い性格だからこそ言い切れたもんじゃねぇのか？誰よりも付き合いの長い仲だったから自分から逃れないという確信。でもそれ『恋心』じゃなくて『情』だよな」

勇は天童さんの話を無表情で、でも少し傷ついたような表情で聞いていた。

「自分と同じくらいの気持ちをねだるのは違わないか？息苦しくなったら逃げるぞ。ちょうど今、テメェから人との縁を切る方法覚えさせられてるとことだし」

ToBeContinued