『カカオ79％』238：発展（3）【あらすじ＆感想】

238：発展（3）

翼がドアを開けると、目の前にいたのは、髪を切って少しかっこよくなった勇だった。
「あ…？」
翼に気がついて、勇がこちらを向く。

「あれっお前今日はあのヤンキー女と遊ぶって…まあいいや、どうした？連絡もなく」
勇は言うが、翼は短くなった勇の髪に目が行って驚いた表情をしていた。

「か、髪…が…」
「え？ああ昼切ってきたよ、うなじがいい加減うざったらしくてさ」
勇が答える。そして自分の髪を触りながら
「でもちょっと切りすぎたような…」
と言うと、翼が慌てて言う。

「いや！ちょうど良い感じ…！私そのぐらいがす–」

勇は『す』の次の言葉が気になり翼を見る。『す』に意識してしまった翼は赤面する。

す

「スッキリ！してて良いと思う……」

翼は真っ赤になり、翼の顔を直視できずに、顔をそらしながら言う。

勇は、素直になれない翼のことを察し、このぐらいが一番好きなのか、と、この長さを維持しようと心に決める。

＊＊＊

皆さん
こんばんは

私は今
遊園地帰りの微妙な空気を
フォローするため
勇の部屋に来ています

またギクシャクな感じに
戻ってたらどうしよう
と心配だったけど

超余計な心配でした

勇は笑顔で終始ニヤニヤニヤニヤとして、ベッドの上に座る翼の横に腰を掛ける。

そんな勇に戸惑いながらも、翼は心の中で、上機嫌じゃねぇか、と呟いた。

「近くない？」
「だってお前から俺んとこ来るのすげぇ久々だし」
「え？そうだっけ…」

翼は考えてみる。

確かに最近
ずっと天童さんと一緒で

勇の部屋にはしばらく来ていない気が…
最後に来たのが確か…

翼の脳裏に、最後に来た日の思い出がよみがえってきた。

あの時、勇におしたおされたとき…

翼は突然、ガバッと立ち上がった。そういえば以前、他にもいろいろ、キスをしたことなど、破廉恥なことが起きた。

し、しまった

ここ最近、密室（？）で二人きりになるたびに
あんなムードになってたことを忘れてた…！

無防備にのこのこと来てしまった

翼の表情の変化に、勇は不思議そうな顔をしている。

昨日のこと気にしてそうにないし
今日はこの辺でお暇…

立ち上がった翼がそう考えた瞬間、勇が翼の手を握って、翼はビクッとする。
「帰んの？」
勇のまっすぐな瞳に、翼はドキッとする。

つ…！！

あああーダメだ…！
私は今日こいつには勝てません…！！

いつもながら
この目には弱いんだよ…！

そう思いながら翼は再びベッドの上に座った。翼は勇の横顔をちらっと盗み見る。

短い髪型の方が好みではあったけど…

清楚華憐

良い…
良いではないか…！

昔の髪型に似た感じへ戻っただけなのにそれが良い…！

翼はときめいていた。

ずっと一人で悩んでたことを
天童さんに打ち明けたおかげか
少し心に余裕が出来た気がする

そのせいかいつもより勇のことがはっきりと見えてきた

勇は、そういや見せたいもんがあった、と立ち上がり振り返った。勇の後姿を見た翼は思う。

丸っこい後頭部
触りたい

もうすぐ愛ちゃんに会えるかも知れない

何も言わずに消えてしまうぐらい
私を恨んでいるのかも知れない

私も勇が好きだよ

そう伝えたら
もっと嫌われるだろうか

翼は手を伸ばして、勇の後頭部から首筋にかけてをスーっとなぜた。

勇はビクッとして
「な、何？！」
と振り返る。

それを知るのは怖いけど
本当は少し期待している自分がいる

翼は思う。

…頭撫で撫でしたい

考えてみれば付き合ってる仲で
触れ合うなんて
別に悪いことじゃないよね？

翼は振り返った勇の頭をなでなでとなでる。

全てを打ち解けることができるなら
私は勇に対して
今より素直になれるんじゃないかな

きっとあなたのことが
もっと好きになる気がする

勇は翼を見る。翼も勇を見る。二人はキスをした。

この瞬間初めて
互いが相手を求めていると感じた

こんなにも素直になれたのは
これが初めてで
最後だった気がする

＊＊＊

そのころ蛍は、１階のリビングのソファで、スマホのニュースを見ていた。横には弟の光もいる。

ある記事に目が留まる。
『綾野空選手、無事大会を終えて間もなく帰国へ…』

翼の兄の空の写真が写っていた。驚いた蛍は立ち上がり、思わずスマホを落としそうになる。
「つば…！」
と翼を呼びかけて、ふと我に返る。勇と二人きり。邪魔してはいけない。後で知らせよう、と。

ToBeContinued