『カカオ79％』233：深化（1）【あらすじ＆感想】

遊園地の観覧車に乗るペア。

 

アリザワ先輩とリナ先輩。翼と勇。橘君とモブ男。天童さんと天童さんのクラスメイト。そして委員長と村上さん。その最初の組み合わせから。ズレて。

 

「ごめん～ちょっとお手洗い行ってきていいかしら」

 

と先頭のリナ先輩が抜けてる間に、列がどんどん進んだ。

「リナのやつ遅いなあ」

とアリザワ先輩が心配しているうちに、混雑の合間をぬってやっと戻ってきたリナ先輩は、グループの一番後ろに並んでいた委員長に触る。

 

「はあーやっと着いたぁ、ただいま」

そして、委員長に話しかけた。

「あら薫くん、何だか久しぶり💛」

 

「おい、リナ早く…！」

前からアリザワ先輩が急かす声は、リナ先輩には届いていない。

 

「次のお客様ご搭乗ください」

アリザワ先輩は係員に促されて

「えっあー」

 

とっさにすぐ後ろにいた勇の手をガシッと掴んで歩き出す。

「あ？」

 

勇が気が付くと、ゴンドラの扉が閉められたところで、アリザワ先輩と二人で観覧車に乗っており、翼はゴンドラの外にいた。

「ちょ…！」

そんな勇の横で、アリザワ先輩は、一人は死んでも嫌、と呟いていた。

 

「あは…あはは…」

行ってしまった勇たちのゴンドラを見送りながら、翼は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

 

「さあ、次のらないと」

不意に翼のことを押し、ゴンドラに乗せたのは、モブ男だった。

 

ズレて

 

ズレて

 

天童さんのクラスメイトが、橘君とのことに気を使ってか、天童さんを先に、どうぞどうぞと促した。

 

そのため、天童さんと橘君が二人で乗る。

 

「じゃ私達で乗ろっと～」

リナ先輩が委員長の腕にぶら下がった。

 

ズレて

 

のこった天童さんのクラスメイトと村上さんは、お互い顔を見合わせてため息をついた。最後は、この二人が一緒に乗ることになった。

 

＊＊＊

 

翼とモブ男のゴンドラ。二人は向かい合わせに、椅子に座る。

「やっと二人でゆっくり話せそうになったね」

とモブ男が言っている。

 

何これ

 

何で私がこいつと二人で観覧車を乗ることになってんの？！

 

モブ男は笑みを浮かべながら話し始めた。

「実はさー、ずっと何かアクション起こしてくれるのを待ってたのに何もないから～勘違いしそうになったじゃない、もしかして綾野さんは、夏目愛のことはもう忘れたんじゃないのかなって」

 

翼は息を飲んだ。

「そんな…！！…あんた、そろそろはっきり話してくれればどうよ、こんな探りなんか入れないで」

翼はモブ男に正面から聞いた。

 

「あんた愛ちゃんの何？どういう関係なの？」

 

ふたりは向き合ったまま、モブ男は少し口角を上げた。

 

「俺は夏目愛の弟」

 

そして言う。

 

「夏目愛に会いたくない？」

 

＊＊＊

 

アリザワ先輩と勇が乗るゴンドラでは、アリザワ先輩が勇に胸ぐらを掴まれていた。

「いやぁぁ、本当の本当の本当に…すみませんでした…」

アリザワ先輩が勇から目をそらしながら謝る。

「でも、もう乗っちゃった訳だし、仲良く楽しく…」

 

「俺はテメェと観覧車を乗りにここへ来たんじゃねぇ」

勇が言う。

「ごもっともです」

アリザワ先輩は言いながら、小さな声で忘れないでね、俺は君の先輩です、と呟いた。

 

「はあー何なんだよマジでー、一人が嫌だったら順番後ろに回せばよかっただろうが」

勇は椅子に座りながらため息をついた。

 

「なるほど頭いいなぁ、でも、間違って大魔王の手を引っ張るよりはよかったんじゃねえのか？」

アリザワ先輩の言葉に、勇はぴくっと反応し、アリザワ先輩を睨んだ。

 

＊＊＊

 

天童さんと橘君のゴンドラ。

 

天童さんが、外を眺めながら、

「おお高い」

と言っていた。

 

「天童」

橘君が不意に天童さんを呼ぶ。天童さんが少し心配そうな表情を浮かべた。

 

「今更だけど謝らせて欲しいことがある」

橘君が続ける。

 

「文化祭の時は、本当に、ごめん」

 

天童さんの目が見開かれた。

 

『天童が俺に求めているのは家族なんだ』

文化祭の天童さんの告白に対して、橘君はそう言った。その時のことを、二人とも思い出していた。

 

 

ToBeContinued

 

カカオ79%【感想(ネタバレ有)】