web漫画/カカオ79％【あらすじ(ネタバレ)＆感想195話】～残り21％の甘さ～
ガシッ
万引きをしようとした天童さんが、おにぎりをカバンに入れる手前で、おにぎりを持った左手が、誰かの右手で掴まれた。
天童さんの手を止めたのは、翼だった。天童さんが横を見る。翼が無表情で前を見ていた。ギュッと翼の手に力が入る。
その様子を、レジの中から店員さんが不思議そうに見ていた。が、目の前の客に意識を戻し、レジ打ちを再開させた。
天童さんと翼の二人は、言葉を交わすことなく、一瞬フリーズしたが、翼がパッと天童さんが持っていたおにぎりを取り上げた。そして、ガシッガシッと無造作におにぎりやサンドイッチの商品をたくさん掴み、バラバラっとレジの台の上に置いた。店員さんがその勢いに面食らっていたが
「いくら？」
と翼が言った。天童さんは、おにぎりの棚の前で固まったままだった。
会計を済ませてお店を出ると、翼は振り返った。後ろには天童さんがいた。
バサッと音を立てながら、翼は今買った沢山のおにぎりを天童さんに差し出した。天童さんが翼を睨む。
「どうした？また投げたりするの？」
翼が言う。天童さんは何も言わない。
翼はカジッと歯を噛み締める。
「黙って持って行きなよ！盗むぐらいなら貸してもらえって言ってんだよ！頼むからそのプライドなんとか出来ないの？！」
翼が大きな声になる。
「ほっといて欲しけりゃほっとけない状況を見せないで！一人で生きて生きたいならもっと器用に生きろ！何よこのざまは！こんな状況で強がっても哀れなだけってわからないの？！」
天童さんは、いつかの、姫宮さんに言われたことを思い出していた。
『本当に可哀想なのは私とあなたどっちなのか』
『同情するわ』
ああ
なるほど
くだらないプライド
意味のない強がりって
見透かされてるもんな
私には
何もないってことぐらい
皆知っているのに
でも
このくだらないプライドでも
かかげてないと
「そうでもしないと、私は這いずって生きていくしかないから」
天童さんは翼に言った。
「指を差されながらも顔を上げられずにずっと俯いて、笑われてもゴミのように見られてもそれでも物乞いをするしかないの。同情されて無視されて馬鹿にされて、それでも頭下げて助けて下さい、そう言うしかない人生を、私は生きていくしかないんだ。そんな人生、生きていく価値ある？」
天童さんの問いに翼はもう一度、奥歯を噛み締めた。そして、おにぎりの入った袋を天童さんにバサッと押し付けて、
「ある！」
と言い切った。
ガシッと、両手で天童さんの両肩を掴んだ。
「そこまでしてでも生きてて欲しいと思う人達がいるから、生きるんだよ！」
翼は天童さんの目を見て言う。
天童さんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
どうすれば
あなたを心配している人が
沢山いるってことを伝えられるのか
この子は
垣根の外にいるんじゃない
自分一人
高くて厚い
垣根の中に閉じこもって
身を守っているんだ
「あんたにボロクソに言われた私でさえもこんなにあんたを助けたいと思っている。だからもっと目を開いて自分に手を伸ばしている人達を見つけ出して、うまく利用しなよ。生きる価値のない人生とか言いながらも、腹が減っておにぎりに手が伸びてしまったわけだから…きっと上手くできる」
＊＊＊
天童さんは、暗くなった街を、コンビニの袋を下げて歩いて行く。先ほど翼に言われたことを反芻する。
そこまでしてでも生きて欲しいと思う人…
じゃあ私はなぜその人たちの為に生きる必要があるのだろう
辛い思いを我慢しながら
人って何故生きる？
自宅のアパートに近づくと、部屋の前でお父さんが大家さんと話しているのが見えた。
何故出てきてる、あのバカは
…あんな風に生きるしかないのに
私達は…
あの人は…
「お願いします！」
お父さんが大家さんに頭を下げる。
「今度こそ娘とちゃんと生きていきたい、だから…許してくれませんか、家賃だってちゃんと払いますから…」
大家さんは
「…と言ってもね…あなたまた逃げたりして…」
と言う。
「決してそんなことは…！」
お父さんは頭を下げたままだ。
「あなたが消えてから雫ちゃんがどれだけ苦労したか分かってるの？」
「わ、分かっていますだからこそ…」
「もう…仕事は見つけたの？」
「はいっ明日から探すつもりで…」
天童さんは、アパートの階段の下からその様子を見ていたが、階段を急いで登る。
…あんな風に生きるしかないのに
私達は…
あの人は…
何故私達は…
天童さんの目から涙が溢れ出ていた。
ToBeContinid
カカオ79%【感想(ネタバレ有)】
この出来事で、翼と天童さんの関係が少し変化したのではないでしょうか。
生きていく価値を翼に問うた天童さん。価値はあると即答した翼。今は他のことで頭がいっぱいかもしれませんが、いつの日か、落ち着いた頃に、万引きを止めてくれた翼の手を思い出してほしいですし、生きていく価値はあると、生きてて欲しいと思ってる人が周りにいると、即答してくれた翼のことを支えにして欲しいと願わずにはいられません。
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