『カカオ79%』171:迷子(9)【あらすじ&感想】

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web漫画/カカオ79%【あらすじ(ネタバレ)&感想171話】~残り21%の甘さ~

橘君は大家さんの横で立ち尽くして茫然としていた。
「じゃ、じゃあ私は伝えたから…」
大家さんは気まずそうに帰って行った。天童さんもまた、ゴミが散乱した薄暗い部屋で茫然と立ち尽くしていた。

「あ、あの!天童のご両親は今どこに…」
橘君が、行ってしまう大家さんに慌てて聞く。
「さ、さあ知らないわよ」

「は…ははっ」
天童さんが一人で笑い出した。橘君は天童さんの方を見た。
「あははは、こりゃ同情されても仕方がない」
天童さんはふらふらと膝をついた。
「…天童」
橘君が天童さんに駆け寄ろうとするが、そんな橘君を天童さんが制した。

「帰れよ」
橘君は立ち止まる。
「ボンボンにはこの状況が理解できねぇんだろうな、私の親はもう帰ってこない」
天童さんは叫ぶ。
捨てられたんだよ、私。いい加減空気読んで帰れっつーの」

橘君はアパートの部屋の中を眺める。キッチンのシンクには食器がたまり、テーブルには書類や開けていない封筒などの郵便物が雑然と置かれ、床にはゴミが散乱していた。

「助けて」
橘君の言葉に、天童さんの表情が少し変わる。
「…って言ってもいいよ」

「…は?私が?あんたに?…何をどうやって助けてくれるって言うんだ?」
と天童さん。
「…金銭的な問題なら俺の親に相談して…」
橘君は慌てたように言う。

「…あんたも私に同情すんの?一人じゃ学校へもたどり着けない私が、友達一人いなかった私が、まともに生きることもできない私が、可哀想だから声をかけてただろ?!あんたたち恵まれたやつらはどこまで私を…!惨めな気持ちにさせれば気が済むの?」

橘君は、天童さんの問いには直接答えず、静かに話し出した。
「…俺ね、テニスやってると昔からたまに言われるんだ。才能あるから頑張ってないとか、金があるから良質なレッスン受けれるだろうし、上手くて当然とか、生まれが違うから勝てないとか、俺だって死ぬほど努力してるのにひどいよね。金持ちだからって、テニス上手けりゃ世の中の金持ちは全員プロの選手になればいい。勝てないからって何でも環境とか周りのせいにしちゃのって、負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだ
橘君の表情にいつもの笑顔はなく、真剣な顔をしていた。

「でも恵まれて生まれたことは否定しないよ、事実なんだから。本当の実力がないと生き残れない世界へ行けるように努力してる。あれこれ言ってた人たちがぐうの音も出せないようにね」
橘君は、改めて天童さんの方をまっすぐに見た。
「同情されたくない惨めな自分が嫌だと思うなら、そこから変わる努力をするんだ」

天童さんは反論する。
「簡単に言うなよ!テニスがなんだって?金のある親から生まれたおかげでやれてるくせに偉そうに言うんじゃねぇよ!努力って何よ!教えてくれる親も友達も何もなかった。もう住む家すらない私に何ができると言うんだ?!」

「ここに力になれるかもしれない人がいるじゃん!少しは甘える方法も覚えろよ、俺らまだ一人の力では生きていけない子供なんだから!」
橘君が一生懸命に話す。
「…そんなの知らない、私なんかにタダで優しくする人なんかいるわけがない」
「そうだよ、これはタダじゃないいんだ。後々返せばいい。全然惨めなことじゃないいんだよ」

天童さんは、一生懸命な橘君と話していて脱力する。
「あんた…おかしいよ、ただのクラスメイトにここまでするか?」
天童さんの問いに、橘君は素直に答えた。
元クラスメイトだからするんだよ、力貸すのは俺じゃなくて俺の親だろうけど」
天童さんはますます困惑した表情になる。

「あれ?これじゃ説得力足りない?俺が昔道で迷ってた天童に声をかけたのも、今日こうやってここにいるのも、天童に同情したからじゃなくて困ってるクラスメイト…友達が目の前にいたから、多分俺、天童じゃなくて…例えば姫川だったとしても同じだったと思う」
天童さんは橘君の言葉を聞いて、愕然とした気持ちになる。

…は?それってつまり…

橘君の話は続く。
「生まれから違う世界の人だと天童が勝手に線引いて距離をおいたから、天童からしたらただのクラスメイトかもしれないけど、俺にとって天童はみんなと同じ友達だったんだよ」

何だろ
何より聞きたかった言葉だったかもしれないけど
意外とがっかりしてる自分がいる

何それ

…あの程度の距離で友達?
みんなと同じ?
優しいけど深く踏み込まないその距離が
橘にとって友達に対しての普通の距離なら

同情されてたわけじゃないいんだ
でもそれって…

橘にとって私は特別だったわけでもなかった

…なんかムカつく

天童さんは、拳を握りしめた

いっそのこと
同情でもいいから
私だけは他より気になっていたと言ってほしい

そこらへんのやつらと
一緒の目線に入れないでほしい

あの程度の距離で
友達とか言わないでほしい

おかしい
同情されるくらいなら死んだ方がマシだと思ってたのに

もっと近づける名分をくれ

このぐらいの距離で満足しないでくれ

「ただの元クラスメイトに力を借りるのは納得できないと言うなら、これを機会に天童も俺のことを友達だと思ってくれればいい、友達は困った時には助け合うものなんだから」
橘君は、少し困ったように笑った。

もし私が純粋に姫川を助けてやっていたら
私たちは友達になれたかな

天童さんは想像してみる。
「大丈夫?怪我してない?」
と天童さん。
「…ありがとう、昔…ひどいこと言ってごめん」
とミドリ。

昔、一人で怯えていたミツウラに力を貸してあげてたら
私たちは結構仲良くやってこれたんじゃないかな

天童さんは想像してみる。
「ちゃんと謝れば許してもらえるよ、私がそばにいてやるから」
と天童さん。中学生になったミツウラは、目が合った時に
「よっ天童!」
と挨拶したかもしれない。

この時の橘には
やっぱり私を同情する気持ちが
どこかにあったと思うけど

それでもいいと思った

人に優しくされても
借りを作っても
惨めじゃない時もあると

橘だけが教えてくれた

天童さんはどさっと座り込む。
「て、天童?!」
橘君が驚いて声をかける。

天童さんは泣いた。声を上げて泣いた。
「っ…た…たすけて」
涙が頬を伝う。

声をかけてくれた
道を教えてくれた
『友達』
『楽しい』
『特別』

***

そのあと、橘君のおじいさんに、橘君と一緒に頭をさげて金銭的援助をお願いしたり、一緒に勉強したり、そして一緒にいるときに翼の話も聞いた。
「昔、俺がテニスのことで落ち込んでた時に励ましてくれた女の子がいるんだ、翼って子だけど最初男の子かと思って…後で写真見せるよ」

橘の特別になりたい

***

高校の文化祭。ウサギの着ぐるみを着た橘君を天童さんは呼び止めた。
「橘…!!」

なりたかった

ウサギの橘君は、天童さんに背を向けて、去って行った。うつむく天童さんに、文化祭の係の人が黄色い風船を渡してきた。受け取って、風船を持ったまま、自宅のアパートに帰ってきた。

黄色い風船にはマジックで、『たちばな』と書いた。部屋で浮いている。天童さんは薄暗いアパートの部屋で、布団の上に座り込んで、その風船をうつろな目で見つめた。

これからは
橘のいない道を
一人で帰ってこないといけない

道しるべを失った私は
ここからどこへむかえばいい?

ToBeContinid

カカオ79%【感想(ネタバレ有)】

特別裕福な家に生まれて、テニスでどんに努力をしても、実力と認められないことがある橘君の葛藤と、努力できる環境にすらなかく、もがき、足掻きながら一人で必死で生きてきた天童さん。ある意味で真逆な2人が、真剣に話しをしていると、どちらも正論なのに、そしてどちらも相手のことを(傷つけようと思って話してるわけではなくて)尊重しながら話しているのに、どうしても埋まらない理論が出てきてしまっていて、とても読み応えのある内容でした。

裕福な家庭環境のせいで努力が認められない橘君が吐露した自分の葛藤に対して、裕福だからこそテニスをしていられるくせにと言った天童さんはまさに正論でした。

それに対して、否定はしない、でも自分は努力していくと言った橘君。天童さんにも、環境のせいにしちゃダメ→努力出来る環境じゃない→だったら自分に甘えていい、という橘君の理論をぶつけます。さすがに橘君に軍配が上がりましたね。助けてという言葉を、天童さんから引き出したわけですから。

橘君に特別に同情されたくなかった天童さんが、誰も特別視しない橘君を前にして、橘君の特別になりたいと思った、これが天童さんのほろ苦い恋の始まりのようですね。

幼い頃、パパ、ママと書いていた風船。手を繋ぐ代わりに風船を握った天童さん。今度はたちばなと書いた風船。

やっぱり天童さんは、橘君の言うように、橘君には家族を求めているのでしょうか。

天童さんが失恋して初めて、橘君と天童さんの過去が明かされるという物語の構成に、脱帽せずにはいられません。

カカオ79%【ネタバレ/伏線回収班】

準備中

 

 

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